化学工学会平成13年年会要旨

実装置規模の蒸留塔における挙動

(東理大院・工) ○(正)大江 修造

1.緒 言

 蒸留塔の棚段(多孔板トレイ)において効率低下の重要な要因となる現象は棚段上における飛沫同伴(Entrainment)である.飛沫同伴による液滴は棚段上で発生する蒸気に比較してより高沸点成分に富むために上段に混入する液滴はその低沸点成分の液組成を低下させるから効率の低下をもたらす.さらに,不揮発性成分を同伴するために塔内および留出物を汚染する原因ともなる.飛沫同伴量は蒸気および液流量の影響を大きく受ける.

 米国の蒸留研究機関FRIでは継続的に実装置規模の試験用蒸留塔を用いて、総合的に蒸留塔の性能を確定するために実験および解析を行っている.FRIより飛沫同伴の実測データの一部を得て先に報告した.本報告ではシクロヘキサン+ヘプタン系の24psiaにおける飛沫同伴の測定結果につき検討を加えたので報告したい.

2. 飛沫同伴(Entrainment)の特徴

 飛沫同伴の挙動はFRIにより初めて明らかにされたと言える.飛沫同伴は特異な挙動を示すために長年にわたり諸説唱えられていたが,FRIにおける広範囲におよぶ実験並びにデータの解析により明確になった。すなわち,塔内の蒸気流量を一定とした場合,飛沫同伴は液流量の増加に対してある液流量までは減少するが,さらに液流量を増加させると飛沫同伴量は予想に反して増加に転ずる.液流量の増加に対して飛沫同伴量が減少する点は理解しやすいが,増加する点については予想が困難であった.

3. 実験装置概要

 試験した棚段は多孔板トレイ6段(開孔率8,14%,孔径0.25,0.5インチ)であり,塔径は4ft,段間隔は24インチである.出口堰の高さは1および2インチであり,出口堰の長さは37インチである.飛沫同伴量測定用に最上段に高さ61インチの飛沫補集装置を設けてある.

4. 実験方法

 測定は塔内の蒸気流量を一定の状態で液量を増加させて行った.蒸気流量は30から50Gpmの範囲とした.

5.結果

 結果をFig.1,2に示した.Fig.1は同一装置条件での結果であり,蒸気流量を●は44,◆は40,■は30M LBS/Hとした場合である.何れも液流量約140GPMにおいて,飛沫同伴量は最小値を示している.Fig.2は3種の装置条件における結果を示した.Fig.2においては液流量約120GPMにおいて,飛沫同伴量は最小値を示している.両図においてほぼ同一の液流量において飛沫同伴量は最小値を示している.

6. 結 言

 飛沫同伴の特異な挙動を示すことが出来た.解析,設計および運転に有用な情報が得られた.

謝辞 貴重なデータを提供していただいたFRIのDr. Deem社長,Dr. Kuenish研究部長並びに種々ご教示いただいたYanagi氏に記して謝意を表します.

参考文献

(1) 大江修造 「蒸留工学」, 講談社, 1990 , (2) 大江修造, 横山公彦,中村正一,石川島播磨技報, 14(2), 105,1974, (3) M. Sakata, T.Yanagi, Distillation 3rd Intern. Symp., Institute of Chemical Engineers,3.2/21, 1979, (4) FRI REPORT, 1965, (5)H.Z.Kister, Distillation -Design-, McGraw-Hill, 1992, (6) J.R.Fair, Petrol./Chem.Eng., 1961,45; J.R.Fair, R.Matthews, Petrol. Refiner, 153(1958)

*) Shuzo Ohe, Tel/Fax: 03-3267-3704 E-mail : ohe@s-ohe.com