はじめに
蒸留という技術は素晴らしい技術です。何故なら、この技術がなければ車も走らなければ、我々の豊かな生活もあり得ないのです。蒸留によりガソリンが生産され、蒸留酒が飲め、安価で優れた繊維製品が手にはいるのです。
世の中に、最初から純度の高いものはほとんどないのです。唯一例外は水だけです。アルコールにしてもガソリンにしても化学薬品にしても、ほとんどの物は純度の低い物を蒸留により純度の高い物にしなければ真価を発揮できないのです。
更に、蒸留が素晴らしいのは、原理から工業的製法に至るまで理論が明確にされていて、誰でも学びさえすれば、この素晴らしい技術を身につけることができ、それを生かして世の役に立つことができるのです。
本書を手にとられた方は、必要に迫られて手にされたか、あるいは何らかの理由により興味を持たれて手にされたことと思います。是非、本文に目を通していただきたく思います。そして、興味が沸きそうでしたら本書を片手に計算例を自分で計算してください。これが一番身に付く方法です。
説明を10回読むより1度の計算の方が、はるかに理解が進むのです。本書は、そのお手伝いをするものです。単に読むだけでは疑問が解決しません。計算してみて初めて疑問が解けるのです。
蒸留技術は特に、体系がととのっていますので、計算による技術の習得に向いています。計算の説明を見ると、一見難しそうに見えるかもしれませんが、それは、そう見えるだけで計算するのが、一番の早道です。
これは、日々私自身が実感していることです。授業において、講義をしたら、その時間のうちに演習をすることにしています。学生の顔を見ていると、理解が段々に進んでいくことを確認できます。
本書の目的は蒸留の基礎を理解していただく事にあります。本書で蒸留の基礎が理解出来ましたら、蒸留の設計や運転の仕事を円滑に遂行できるでしょう。
本書を次の方々にお薦めします。
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大学や高専で蒸留を学習中の学生
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企業で蒸留の職務についている技術者,研究者
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授業の参考書を探している教員
筆者は幸いにも世に出て以来、一貫して蒸留という仕事に40年以上にわたり従事してきました。これまでの職業生活の前半は企業において、蒸留技術の設計開発に従事してきました。後半は大学において蒸留技術の研究および執筆活動に従事してきました。
前半においては新しい蒸留装置を提案したところ幸いにも勤務先の認めるところとなり研究開発に専念できました。着想から工業化までを直接担当しました。机上の手作りの実験装置を皮切りに、工業化試験の後、実証試験を米国の蒸留研究機関(Fractionation
Reserch,
Inc.:FRI)で実施し、性能を確認できたことにより、開発の手応えを実感することができました。
この米国での実証試験を契機として、米国の技術者,研究者との交流の機会を得ることができました。特に、FRIの役員との交流により、蒸留技術の最先端に接することが出来ますことは無上の喜びであります。同時に米国化学工学会(American
Institute of Chemical Engineers:
AIChE)の蒸留部門の首脳部の方々との交流も誠に有り難いものです。
特に、米国における蒸留分野での第1人者であるヘンリー・キスター氏の名著
HENRY
Z. KISTER "DISTILLATION -- DESIGN --"
から多くのことを学びました、ここに同著をサイン付きで頂いたときのサインを転載して感謝の意を表します。
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