一般の人には,蒸留とくれば昨年のNHK朝ドラ「マッサン」のニッカウヰスキーの余市蒸溜所の釜が思い出されるのではないかと思う。あの首の長いポットスチルは絵になる景色だった。膠(もろみ)を入れて加熱し蒸発させる単式の蒸溜釜。蒸気を凝縮させてあの細長いパイプからウヰスキーの原酒ができるのだ。
もう一つの蒸留に関する景色は,ちょっとしたブームになった川崎のコンビナートの夜景。高度成長期には今日では想像もつかないほどの蒸留塔や精留塔が林立し,まさしく日本経済を牽引してきたコンビナートの光景が目に焼き付いている。石油コンビナートは,最新鋭の制御技術で24時間運転されており,水銀灯で浮かび上がるタワーの威容が人の心を楽しませるのだろう。
さて,本書は化学工学の単位操作の中でも最もポピュラーな“蒸留”の本。最近は大学の講座から「化学工学」が姿を消して一抹の寂しさはあるけれど,化学産業における蒸留操作は今も重要な役割を担っているのは変わりない。エネルギー多消費型産業といわれる化学産業の中で,蒸留による分離には約40%エネルギーが費やされているともいわれ,蒸留技術が今もって革新されているのも納得である。イヒ学産業での蒸留技術はかなり高度,複雑・精緻で,プラントの中核をなす。蒸留に関する高度な操作はコンピュータによるところが大きいが,基本的な理論は今も昔もそれほど変わらない。
本書の前半は,蒸留の役割や気液平衡,蒸留塔の設計などを,後半は実用的な蒸留のトラブル解決法や新しい蒸留技術について解説。全編を通してイラストをふんだんに挿入して一目瞭然に理解できる仕組みになっている。
化学プラントの現場に配属される新入社員や教育機関で蒸留を担当される方に是非お勧めしたい一冊である。
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